『The origin of life』は、BioClubのより広い認知を目指して生み出された3種類のタイポグラフィで、世界三大広告賞のひとつとされるONE SHOWにて、3部門のゴールドを獲得した。Houdiniのプロシージャルモデリングをベースにしつつ、デザイン、プログラム、レタッチ、印刷の専門家のコラボレーションを経て誕生した本作の制作過程を紹介しよう。
TEXT:堀川淳一郎(Orange Jellies)、尾形美幸(CGWORLD)
従来の表現の延長線上にはない不思議なものをつくりたい
BioClubは、バイオテクノロジーに興味をもつ人々が集うコミュニティスペースで、実験・研究が可能なバイオラボを併設している。それをシンボライズした本作は、生命の原初である細胞が単純な油膜構造をもつことに着想を得ている。
「今回のプロジェクトでは、水と油をモチーフに、バイオテクノロジーのビジュアライゼーションを目指しました。しかも、従来の表現の延長線上にはない、不思議なものをつくりたいというねらいがありました」と、本プロジェクトを牽引したアートディレクターの竹林一茂氏は語った。竹林氏はグラフィックデザイナーとして、長い間、「広告業界にどっぷり漬かってきました」とふり返った。その領域から、さらに飛躍するため、ちがう分野の専門家とコラボレーションできる機会を探し続けてきたという。
竹林氏の招集を受け、プログラマーの堀川淳一郎氏、ビジュアルテクノロジストの工藤美樹氏、プリンティングディレクターの山下俊一氏が初めて一堂に会したのは、2018年10月上旬だった。
「集まってはみたものの、『このメンバーで何をやるの?』という戸惑いがお互いの間に充満していて、すごく気まずかったのを覚えています」と竹林氏は苦笑いした。それでも、「このメンバーの力がまとまれば、おもしろい表現が生まれる」という期待があったそうだ。
「竹林さんは最後まで不安を抱えていたようですが、堀川さんが最初に出してくれたテスト画像を見た瞬間、私は『おもしろいものができる』と確信しました」と工藤氏は補足した。
水と油をシミュレーションでいる堀川氏、それをデザインとして定着できる竹林氏と工藤氏、紙に出力できる山下氏が揃っており、全員がアイデアを惜しみなく出せるプロフェッショナルだったので、苦労はあったが、純粋なものづくりを追求できたプロジェクトだったと語った。