伊藤若冲《釈迦十六羅漢図屏風》デジタル推定復元プロジェクト
TOPPAN株式会社
2024
https://www.holdings.toppan.com/ja/news/2024/07/newsrelease240704_1.html
伊藤若冲《釈迦十六羅漢図屏風》デジタル推定復元プロジェクト
2024
文化財のデジタルアーカイブに取り組む印刷会社のTOPPANによるデジタル推定復元作品の一環として、伊藤若冲の幻の作品『釈迦十六羅漢図屏風』をデジタル推定復元しました。
伊藤若冲「釈迦十六羅漢図屏風」は、「枡目描き」という特徴的な画法が用いられた作品のひとつです。現在、行方不明とされる作品ですが、太平洋戦争末期の大阪大空襲で焼失した可能性が高く、当時の白黒の図版(288mm×88mm)のみがその姿を今日に伝えています。
白黒写真の図版をもとに、日本美術史家の山下裕二氏(明治学院大学教授)と、荒井経氏(東京藝術大学教授)の監修のもと、木下悠氏(TOPPAN 文化事業推進本部)がプロデュースとディレクションを務め、作品調査では東京藝術大学大学院美術研究科、特殊印刷では株式会社ショウエイ、デジタル彩色では山下岳氏、菅原哲也氏、永井香里氏、阿部宏介氏、弊社を含めた8名のレタッチャーが参加し、 プロジェクト発足から完成までおよそ2年をかけて『釈迦十六羅漢図屏風』のデジタル推定復元を完成させました。
復元作業は主に①調査 ②デジタル彩色 ③印刷 の3工程で進行。
①の調査では、白黒写真の図版を高精細にスキャニングして確認し、いくつかの点で伊藤若冲「樹花鳥獣図屏風」(静岡県立美術館蔵)との類似が指摘できたので、静岡県立美術館の協力を得て、同屏風の調査を東京藝術大学と実施し、使用された絵具などを調査。枡の描き方など復元の参考としました。
②のデジタル彩色では最初に方眼線を描いて12万の升目を作成。その後、白黒写真から図像の輪郭を探して線描を描いていきます。線描で現れたモチーフを淡い色彩で塗り分け、升目の中に方形(四角形)を描き、さらに小さい方形を左下に描き込み、最後に暈しによる量感表現を加え実際の枡目描きと同じような手法で彩色をしました。彩色の決定は類例作品や白黒写真の当時の撮影技法など、様々な観点から白黒写真が伝える情報にアプローチし、東京藝大の研究チームが実際に筆で描いた彩色サンプルを参考に色を決めていきました。
当時の絵の具の質感をPhotoshopで再現する為に、8人のレタッチャーが試行錯誤を重ねることで、絵具特有の滲みや溜まりの質感を表現。絵具ごとの質感の差などを考慮することで、デジタル彩色でありながら、肉筆画のような質感を表現しています。
データ管理の点においては、レタッチャー全員の作業下における共通項目をいくつか設定。
『釈迦十六羅漢図屏風』は8扇から成っているので、1扇ごとにデータを分割して管理。さらに肉身や装束、霊獣、花、空雲、宝具といった要素ごとに担当者を割り振ったうえで作業が進められました。オンラインでの意見交換に限らず定期的に会合を持ち、疑問点や進捗状況の確認を行うことで、各々の作業の道筋を確立していきました。
③の印刷では、「枡目描き」作品の特徴でもある枡目の中の絵具の盛り上がりを、特殊な印刷技術によって表現。実際に絵具で描いたかのようなリアルな質感に見えるよう、細かい調整を繰り返しました。
復元のために各分野の専門家たちが一堂に会し、伝統的な手法とデジタルが融合することで素晴らしい作品を生み出すことができた稀有なプロジェクトです。是非極彩色の屏風を隅々までご覧ください。
デジタル推定復元された『釈迦十六羅漢図屏風』は、東京都文京区の「デジタル文化財ミュージアム KOISHIKAWA XROSS(コイシカワ クロス)」で一般公開中。
https://koishikawaxross.jp/
また、2025年6月21日(土)から8月31日(日)まで大阪中之島美術館で開催される
「日本美術の鉱脈展 未来の国宝を探せ!」に出展。
https://nakka-art.jp/
CGWORLD.JPではプロデュースとディレクションを務めたTOPPANの木下 悠氏、弊社の工藤、佐々木、鹿出に加え、仏師の宮本我休氏をお呼びしたインタビューが掲載されています。こちらも濃厚な内容となっておりますので、是非ご覧ください。
https://cgworld.jp/special-feature/202411-ItoJakuchu.html
プロデュース・ディレクション: 木下悠(TOPPAN株式会社)
監修: 山下裕二(明治学院大学教授)/ 荒井経(東京藝術大学教授)
作品調査: 鈴木七美・須澤芽生・山口美波・大和あすか(東京藝術大学大学院美術研究科 文化財保存学専攻 保存修復日本画)/木下悠(TOPPAN株式会社)
調査撮影設計: 木下悠(TOPPAN株式会社)
調査撮影カメラマン: 宇野恵教(TOPPAN株式会社)
画像制作: 山下岳/阿部宏介(sorame)/菅原徹也/永井香里/工藤美樹・山下直人 ・佐々木菜津子・鹿出俊恵(こびとのくつ株式会社)木下悠(TOPPAN株式会社)
プリンティングディレクション: 小島勉・大橋未季(TOPPAN株式会社)
印刷: 小島勉(株式会社ショウエイ)
表装: 株式会社片岡屏風店
調査協力: 静岡県立美術館/大阪府教育庁文化財保護課